第三集 「動物たちのむかしばなし」

つぶときつね

 

 昔ある大きな池に何十年と住んでいる知恵のあるでっかい「つぶ」がいた。
 狐はいつも、なんとかしてあのつぶを取って食ってやりたいものだと考えていた。だが知恵があり、用心深いつぶを、どうしても取ることができない。
 ある日、狐がぶらりと池のところにやってきて、
「やあつぶさん、今日はいい天気だない。こだにいい天気に、たあだぶらぶらしてでもおもしろくもねいし、何かおもせいことでもしてあすんべいと思って、きたんだよ」
 
「ほうがい、おれも今とろとろといねむりしていたところだが、そのおもせい遊びって何だい-」
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「それはな、おれとおめえと二人で向こうの山のてっちょねまではねくらして、そして敗けた方が勝ったものに食われても、ぜいっていうことにしっぺい。おれが敗けたら、つぶどんに食われる、おめえが敗けたらおれがおめえを食うことにして、はねくらしっぺいでねいか」

 つぶは考えた。

 

 「これは、このずる狐がおれをずうっと前からねらっていても、食えねえんでこんなことをいってきたな。よしそんなら狐のいう、そのはねくらおもせいがんべいが、その太いしっぽが川を渡るとき、水につかってぬれたら何ぼかハネづらがんべえが」

 狐は内心喜んだ。ずうっと前からこのつぶを食ってやろうとねらっていたが取れなかった。今日こそあの大きな、うまそうなつぶが食べられると嬉しくてしょうがなかった。狐は自慢した。

「おれのしっぽはない、年中引きずって飛んで歩いても、毛一本すり切れることはねえんだから、水につかったってちっとも何ともねえんだない」

つぶは

「そんじも、この池の水の中にしっぽを入れて、まるきしぬらしたら、なんぼ狐どんでも重かんべいなん」

 これを聞いて狐は、

「なあにそだことは平ちゃらだい、これこの通り」

 と狐はしっぽを池の中に尻がぬれるほど浸した。つぶは待ってましたと、狐のしっぽの一番先の毛にぴったりと吸いついて、固く固くふたをした。狐はそんなことは知らない1、2、3でかけ出した。

 野も山も川も登りも下り坂も目に入らない。今日こそ、あの大きなつぶのうまい肉が食えると、目の前にぶら下がったようなつぶの肉の味を思い出しながら走りに走った。

 一晩に軽く十里は歩くといわれる狐の足は早い。あっという間に山のてっぺんに着いた。

「つぶの野郎はまだまだ半分も来てなかんべえ」と勢いよく後ろを振り返った。その時つぶは、しっぽのはずみを利用して後の方に飛んだので、狐より一メートル位先に着いた。狐は、つぶが遅れてきたらすぐに食うことばかり考えていた。

 その時、後ろからつぶが「狐どんおそかったなあ、おれはおめえを食ってもいいべ」と話しかけたから狐はびっくり仰天。いつも智恵者ぶり、ごう慢ちきな顔を土につけて、ひらあやまりにあやまったとさ。ほんじゃからなあい、ずるい考えだけでは、うまい物は食えねえんだなあ。

 

 

狐の接待

 むかしむかし、じいさんが山で暮していた。夕方になって米びつに米がないことに気づいて、夕めしに間に合わせべいと、ざるに銭を入れて、ふもとの村に出かけた。

 峠にさしかかって後ろをふりむくと、きれいな娘がやってきて

「じいさん、米買いにゆくか。お供すべえない。」そういって親しくよりそってきた。

 じいさんはこんなあかぬけした娘がいるものかと不審に思ったが、つい話につりこまれ、米買いを忘れて、その娘の家にゆくことになった。そこの家は大きな一軒家で、娘はじいさんを座敷に案内してたいそうもてなし、あぶらあげの狐うどんやたぬきうどんを何杯もお代わりした。じいさん「うめいうめい」と舌鼓を打った。その後は笛や太鼓で賑やかな歌や踊りとなった。

 そうして布団に寝かされたが、朝目がさめてみると、そんな家はどこにもないし、見るとすすき野の真ん中に寝ている。よく見るとそのまわりにいっぱいミミズの皮がちらかっていた。うどんとみたのは、このみみずだったか。いまいましいやら、お尻の土をはたいて山道をくだってやっと昼めしごろ家にもどってきた。

 

老狐首を吊って火事を防ぐ

「作兵衛どん、こんなところになにをしているんだ。天とうさまが、一丈もたかくあがったよ。」

 と、となりの家の新どんに声をかけられ、百姓作兵衛は目をさました。作兵衛にしてみれば、近所のわかし温泉で一杯ひっかけ、いい気持で寝ていたわけであった。ところが布団と思ったのは乾し草をかさねたものであり、湯船と思ったのは、木の香も新しいきのう据えたばかりの肥溜でありました。狐にばかにされたことは誰にでもわかることだった。

 しかし、悪意にみちた狐のいたずらではなく、そこに何か好意が感じられた。

 さてはあの狐か…。作兵衛は五年前、猟師に追われた傷を負った狐を一匹、をかくまったことがある。木小屋に駈けこんできた狐をかわいそうに思い、薬をつけ包帯をまいて、夜中に放してやった。おそらく、その狐の仕業に違いないと思ったのだ。更に作兵衛は、一匹の狐が枕元にきて「ここの屋敷に大火事がおこるが、この身を鎮守さまにささげ、その火難を防ぐことを祈願するつもりだ。」と言うのを聞いた、と話した。

 ふたりは鎮守さまのところへ行くことにした。もしやと思ったことが、それは正夢であった。老狐が社前の大鈴の引き手に首を吊って死んでいたのだ。

 村中大さわぎとった。結局、境内の一隅に小さい石の祠を建て祀ることになった。この鎮守さまを、後に首つり稲荷というようになった。

 

猿を負かした蛙のはなし

 むかし、山の上に一匹の猿と、その下の田んぼに蛙が住んでいた。ある日のこと猿が蛙のところにやって来た。

「蛙どんや、よい相談でもしてうめい餅でも食いていと思って来たんだがどうだべない。」

「それはぜいことに気がついたもんだ、猿どんはなんてったってこの辺での知恵者だからなよかんべ、だがうめい餅を食うにはどうやるんだい、おらにはちっともわかんねいから早く教えてけろや。」

 猿は蛙から知恵者といわれて得意気だった。

「それよなあ、うめいものは今すぐ食うべえと思ってもできねえんだ、これからおめえさんと田んぼを作り稲を作って秋にはなんぼう食ってもたべきれねえ程のいっぱい餅ついてな、狸どんのように腹鼓をうってみていもんだなあ。」

 蛙はひときわ大きな丸目玉をギョロッとむいて「それは賛成、大賛成だ。」と大よろこび、かくして田をつくる相談は決った。

 やがて花も咲いて暖かになって来た。百姓は毎日せっせと苗代を作り種まき準備に忙しい、それでも猿からはいっこうに相談した田んぼ作りの話がない。正直者の蛙は気が気でない。そして猿どんを訪ねてみた。猿は日だまりに長々と寝そべって気持よさそうに昼寝の真最中である。

「猿どん、猿どん、よその家ではみんな種まきの用意をしているよ、おれも気がもめてなあ。猿どん都合はどうなんだい。」

 猿はこれを聞くとにわかに腹をおさえて、ウーンとうなり出した。

 「蛙どん、おれな昨日から腹が痛てえんで困ってるんだ。二、三日したらよくなっペからひとりでつくってくれねえか。」正直な蛙は「腹が痛ていときは誰でもできねいな、ほんじゃらおれだけでやっべ。安心して早くよくなれや」と別れ、蛙はそれからわき目もふらず一生懸命苗代づくりに精出した。

 苗代はできた。さあ次は種まきだと猿を訪ねた。猿は蛙の姿を見るが早いか、顔をしかめ 「この前の腹の痛いのがまだよくなっていねいんでなあ、ああ痛てい、痛てい。」蛙はせっせと籾をまき、水をかけたり干したり丹精こめて苗を育てていった。

 

 田植えである。蛙はまた猿を訪ねていった。今度は木から落ち腰をしたたかうったので昨日から休んでいるのだと寝床に急にもぐり込んでしまった。蛙はやむなく苗の延びを楽しみに手入れに余念がない。いよいよ田植えである。猿はその約束日にもとうとうこなかった。それから暑い日盛りの草とり、やがて秋である。ずっしり実った稲穂を見て蛭は一生懸命働いた甲斐があったとご満悦である。秋のとり入れもすっかり終った。それでも猿は一度も顔を見せなかった。米俵を見て蛙は猿を訪ねた。

「もち米もたくさんとれたし、明日餅つきしようと思ったんだが猿どん都合はどうだべない。」

 猿は大よろこび。

「それはよかんべい病気もよくなったし、おれつくからな用意を頼む。」

 と、大はしゃぎである。さてその翌日餅つきである。だが一寸まてよと猿は考えた。このうまい餅を蛙に食はれてはもったいない、これは一つここでお猿様の知恵を絞っておれ一匹で食ってやろうと考えた。そこで蛙にむかって

「なあ蛙どんや、そこでただ食ってしまっては面白くねえどうだい向い山のてっぺんから臼ごと落し、先に餅に追いついた方が全部食べることにしっぺえでねいか。」

 蛙はちっともいやな顔もせず「よかんべえ。」と賛成した。二匹はエッチラオッチラようよう臼を山の頂上に運び上げ一、二の三でころがり落した。臼は反動をつけ木も草も押し倒しながらころがり落ちていった。猿はしてやったり、餅は全部「おれのものだ。」とばかり、臼の後を夢中になって追いかけ下りてゆく。蛙はそのあとをノソリノソリとついていった。

 頂上から少し下ったつつじの株に廻る弾みでとび出した餅がくっついていたのである。蛙は大喜び、ベタリ、ベタリ目を白黒させながら食べていた。沢までころがり落ちた臼には一かけらの餅もついていなかったのである。ガッカリした猿はアチコチと探しながら登ってくると蛙はゆうゆうと腰をおちつけ、さもうまそうに餅を食べている。猿はもう腹がペコペコである。

「蛙どんや、おれにも少し食わせてくれねいか。」

 蛙は見向きもしないで

「猿どんやあんたはな、一度も仕事もしねいでこのわしにばかりさせたんだぞ、それにこんどは餅をついたら、わしには食わせねえいつもりなんだな、神様はチャント見ていらっしゃって、このわしだけよく働いたということでお授け下さったんだ。ずるいなまけもののあんたには一かけらだってやれねいぞっ。」

 猿は赤い顔を更に真赤にして平あやまりにあやまったとさ。

  

出典
月舘町伝承民話集
おらがまちのとおい昔ちかいむかし

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