第二集 「どこかで聞いたことのあるむかしばなし」

  

親孝行の息子の話

 むかしむかし、親孝行の息子がいた。山に柴刈りに行って仕事をしていると、そこに汚い、しらがの婆さんがきた。
 そしてなにをするのかと柴を刈る手をやすめて見ていると、婆さんは日なたの落葉の上に坐って、しらみとりを始めた。
 髪の毛やえり足で、ぷちっ、ぷちっとつぶす音がする。やがて息子がいることに気づいて
「やれやれ、若いもの。わしのからだにしらみがたかってなあ。かゆくてかゆくてたまらねえでなあ。若いもの、背中のしらみをとってくんねえか。」
 
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 そういって、しらがのお婆さんは首をさしのべた。

「若いもの、ほうびをくれるからついてこっせ。」

 そう言ってすたすた歩きだした。息子がついてゆくと、山の奥に大きな家が見えだし、そこがお婆さんの住居だった。お婆さんは金のさかづきを奥の座敷からもってきて、息子にくれて

「なあ若いもの、お前の親切のごほうびにこの盃をくれるでなあ。何でもほしいものがあったら、盃をふせてふれ。」そういって姿が見えなくなった。

 不思議に思って家に帰ってから、その盃をふせてほしいものを願ったら、目の前にもりもりとそのほしいものが出てきた。しかしその盃は、今はもうない。

 

山彦と子どもの話

 むかしむかし、栗の実がこはぐろにかねついたので、部落の子どもらは、栗拾いにゆくことになった。そうして栗をいっぱい拾って帰ろうとしたとき、そのうちの一人が小高い丘に出て「おーい」とよんだら向こうから「おーい」とよび返された。
 だれか山の向こうにいるにちげえねえとおもしろくなって、またよんでみる。「ばかやろう」そうすると向こうでも「ばかやろう」とよぶ。子どもはみんなからはぐれてその声のする方へどんどん入っていった。
 「どこにいるー」というと、その子どもには「ここにいるー」と聞えてくる。霧がかかってくる深い谷の向こうにだれかいるとばかり思って、木の間をくぐって夢中にのぼっていった。
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 ふいに悲しくなって「おっかあー」とよんだら「ここにいる」と聞えてきた。そうしてゆくうちにもう声はいくらよんでも聞えない。「おっかあ、おっかあ」

 子どもは家に帰ってこなかった。神隠しに出あったのだろう。だから、山にはひとりでゆくものでない。

 

あまのじゃくとうり子姫

 むかしむかし、山の中に、じいさんとばあさんと一人娘のうり子姫がくらしていた。うり子姫は都のお大尽に近く嫁にゆくことになって、お嫁支度の機織りをして、トンカラリトンカラリとおさの音を、朝早くからひびかせていた。ある日じいさんとばあさんは用ができて、ほかの村に出かけることになり、うり子姫にいってきかせた。

「うり子姫なあ、急用ができてわしらは山の向こうに出かけてゆくが、一人で留守居をしてくれなあ。」

 うり子姫は「はい」と素直に答えた。じいさんは

「なあたった一つ気がかりがある。いたずらで悪者のあまのじゃくが、わしらのいないのに気がついて、きっと山の向こうからやってくる。そのときはあまのじゃくに口をきくでねえぞぉ。」

 利口なうり子姫はそれを胸におさめて、留守居をすることになった。そして、晴れた日の縁先に機を出してトンカラリトンカラリと歌をうたって機を織っていた。そうすると、しばらくして山の向こう何やら人をよぶ声がした。うり子姫は悪いことの起きる予感がして、障子をしめて機織りしていたん。だんだん声が近づいて、それは面白そうに歌やはやしの太鼓で

『トンカラリトンカラリと機の音。お大尽様への嫁入りじゃ。花婿様がおみえじゃ。ひと目みないか。ちょうちんずらりとならぶぞ。』

 うり子姫は、初めはじいさんのいいつけを守って、返事をしないで機織りしていた。ところが、おもてはにぎやかで、花婿の迎えの声がし「うり子姫、開けてくれ。行列そろえて迎えにきたぞぉ。」と。

 それに供の者も声をそろえていうので、ついさそわれて障子を開け「おはいり」と声を出して迎えた。開けてみると頬かむりの意地悪者のあまのじゃくがづけづけあがってきて、その魔力でうり子姫をとっておさえて、山の中につれて行って殺してしまった。そして何くわぬ顔してあまのじゃくは、トンカラリと機を織った。

 夕方じいさんたちが帰ってきて、機織りしているあまのじゃくに向って「何もなかったかい。」と聞いた。「はい」とやさしい娘にばけてあまのじゃくは答え、そうして嫁入りの日がだんだん近づいた。

 都のお大尽からは立派なおこし入れの荷物が届くやら、かごの用意をしてもらえるやら、毎日たいへんなさわぎだった。そうしてついに婚礼の日となり、うり子姫にばけたあまのじゃくは、こし入れのかごに乗り、供の者につきそわれて、じいさんばあさんと山の家から峠にさしかかった。

そうすると山の小鳥たちが木立で鳴く声を、じいさんばあさんは聞いた。

  うり子姫の乗りかぁごにあまのじゃくが乗りこんだホイホイ

  うり子姫の乗りかぁごにあまのじゃくが乗りこんだホイホイ

 じいさんはこの声を聞くと、さてはあまのじゃくがいたずらをしたかと、もう娘のいないことに気がついて、深い悲しみに胸つかれ「あまのじゃくめ、かたきをとってやる。」と心にきめて、かごの中のあまのじゃくをひきずり出し、さんざん打ちのめし、うり子姫のかたきをとったという。

怪猫がひつぎをうばった話

 むかしむかし、古猫が飼われていた。ところがその家の主人が亡くなって、葬式となると今まで傍らにいた猫が、ぶっつりといどころをくらましてしまった。葬式にはたくさんの会葬者があり、近在にないような立派な葬式が、しずしずとその家から出た。ところが墓地への途中で一天にわかにかき曇って、その黒雲の中から夜叉となった怪猫が現われたと思うと、
 その枢を黒雲の中へうばって宙づりにしてしまった。
 さあ大変、大騒ぎになって会葬者はあれよあれよと空中を
  仰ぐばかり。坊さんもこのにわかのことに肝をつぶし、どうすることも出来なかった。
 
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  このことを聞いて、たいそう偉い坊さんが村へとんできた。そして天に向って怪猫を説きつけ、葬式のときには必ずお前のことをお経の中に忘れずに説くから、その枢を空からおろして、もとのところへ納めよというお経読み始めた。

 「ノーポ、アラタンノトラヤーヤ。ノーボ、アラタンノトラヤーヤ。ノーマクアリヤミタバヤ、タグキアタヤ アラカテー」と、となえると不思議に雲は晴れ、怪猫の姿はなく枢はもとのところへつりおろされて、葬式は滞りなく済ますことができた。それ以後、葬式には必ずこのお経をとなえることになったとさ。

 

長手のはんど

 山の中の一軒家に、二人の小さな子どもがあったんだと。
 とても仲の良い子どもだったし、元気もよかったんだど。その家は屋根の上の煙出しだって小さな家くらいあったんだと。
 
家が広いもんで、夜になると二人の子どもは家の中をはねまわって、大人の人が話していても聞き取れないことが何回もあったんだと。
 おばあさんは、静かにしろ、さわいでいると長手のはんどが煙出しから手を入れて、お前らをさらっていぐぞ と何回も言ったんだと。
その晩も子ども達は騒いでいて、話しも聞こえないくらいだったんだと。
「長手のはんどが来たぞ」
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 あまりにもうるさいので、大きな声でどなってふと子どもを見ると、一人足りない。

上を見ると、長い手が煙出しのところから伸びていて、子どもを捕まえていくところだたんだと。それっきりこどもの姿は見えなくなってしまった。

今もどこかに、長手のはんどがいんでねがなあ。

 

出典
月舘町伝承民話集
おらがまちのとおい昔ちかいむかし

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